要約

 社会福祉ないし福祉国家の形成史を思想面(価値と認識方法)からとらえるなら、近代日本における社会福祉の形成を外来思想の摂取の問題としてとらえることが可能であろう。そこで、社会福祉の形成にかかわる代表的な思想として、近代的慈善、社会契約説、功利主義を取り上げ、これらの思想が、西欧における中世から近代への移行期において、中世的な精神への否定として登場してきた経緯と、それぞれの思想の意味を検討し、契約説に基づく人権思想には自己矛盾が内包されていること、英国の福祉国家形成を導いたのは功利主義であったことを確認した。そのうえで、これらの思想が近代日本にどのように摂取されたか、そのことが戦後社会福祉理論形成をどのように特徴づけることになったかを解明しようとした。すなわち、社会契約説の受容の反面で功利主義を排除してきたことが、戦後社会福祉理論を特徴づけたことをいくつかの理論の引用から確認した。そこから多元的な価値と認識方法から社会福祉ないし福祉国家を考察することの必要性、とりわけ功利主義の再評価が、政治的視点を欠落しがちであった戦後社会福祉理論の克服につながることを示唆しようとした。

キーワード

戦後社会福祉理論 功利主義 慈善 社会契約説 外来思想