要約 

 エジプトにおいて「近代的」民衆教育制度を設立するに際し、伝統的なコーラン学校であったクッターブに、読書き算数等の教育を加えるという方法が採用された。そのために教師職に試験に基づく資格制度を導入し、現役教師であるフィキーやアリーフへの教育コースを設置し、近代的民衆教育の担い手を育成するための民衆初等師範学校が設立された。こうして、かつてフィキーと呼ばれていた自営の宗教者であった民衆教育の教師は、新たに誕生したムアッリムと呼ばれる給与生活者である近代的民衆教育教師たちにとって代わられた。しかし、コーラン学校の近代化という政策の結果、ムアッリムはイスラーム教師という性格から完全には抜け出せず、また、エリート教育コースの教師であるムダッリスとはまったく違う境遇の二流の教師となる。20世紀前半の「近代的」とされる民衆教育とは、安い給与しか与えられず、昇進の見込みもなく、そして、その教育者としての能力を疑問視されたこうした教師たちによって行われたものであった。

キーワード

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